ビター・レッスン その1


こんなものが出るのかと...

映像業界で新人スタッフがすぐにぶつかるもの。
それは現場で使われる、わけのわからない「特殊用語」です。

こういう特殊用語は「符丁(ふちょう)」といって、例えば大工さんの世界や、デパートの売り場などにもあります。お客さんや、よその人にはわからないように、わざと変な言い方をするのです。専門のプロにしかわからない、ちょっと意地悪なコトバたち。

新人にはわからなくて当然なのですが、
気をつけないと、こんな目にあいます…

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私が放送局に就職して間もない頃の話。
いつものことだけど、スタジオ収録ですごく遅い時間になった。
すごくお腹が空いてきたよ。「ああー、早く終わらないかな…」

なんとその時、FDさん(フロアディレクター)が
「このシーンが終わったら『シダシ』いれてくださいー」と叫んだのだ。

やった!「シダシ」って「仕出」でしょ。つまりお弁当だよ、お弁当。
スタッフをねぎらうために食事がでるのか。やはりテレビ局っていいところだわ。
「お寿司かな?いやいや。スタジオで食べやすいサンドイッチだろ..」と、勝手な期待に胸をふくらませ、笑顔でスタジオ立ち会いを続ける私だった。

しかし、いつまでたっても、お寿司もサンドイッチも何もでてこない。
待ちかねて、一緒にいた先輩に聞いてみた。

「先輩先輩、さっきFDさんが言ってたお弁当まだですかね?『仕出し」って言ってましたよね」
「あほ。『仕出し』ってのは、エキストラの役者さんのことだ。ほら、そこで演技してるでしょ」

シダシ(仕出し)というのは、テレビや舞台では、エキストラや端役のことを意味します。
このとき、思い切って聞いてみてよかった。そのままずっと笑顔で待ってたら、ほんとに間抜け。
ちなみに、その後20年以上テレビ局で働いたが、撮影中スタッフにお弁当が出るなんてことは一度もない。

これくらいの失敗なら実害はありませんが、
もしこれが本当に重要なことについての誤解だったら、大変なことになります。

例えば、撮影前の打ち合わせで「ササキちゃん、ここはヤオヤにしといてね〜」と言われたとします。
「はい、わかりました八百屋ですね」と誤解して、「八百屋さん」のセットを組んだりしたら…

無駄な予算を使って、沢山のスタッフの前で大恥をかくことになります。
ヤオヤというのは、八百屋さんのお店にある台のように「セットを傾斜させて組む」ことなのです。

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さて、今日の教訓(ビター・レッスン)です。

わからないコトバにであったら、その場で意味を聞きましょう。
テレビスタジオでは、知ったかぶりは禁物です。
間違って意味を覚えてしまったら、
それはいつかあなたが落ちる落とし穴になるんですよ!